CHAPTER 2
色無地を選ぶ

来年の話をすると鬼が笑う、といいますが、今年はタイヘンなことばかりだったので、来年にお茶事ができる福を願って、着物を誂えることにしました。

あらためて「ゑり善」を訪ね、亀井さんに相談すると、色無地を勧められました。

「色無地とは文字通り柄のない無地の、単色の着物です。お好きな色を選んでいただくだけで大丈夫なので、初心者にオススメです。それでいて格は高く、フォーマルな場所……お茶事はもちろん結婚式でも着てゆけますし、帯を替えるだけでガラッと印象を変えることができますので、カジュアルな場でも楽しめます」

ゑり善に伝わる色の見本帳を見せていただきました。 ゑり善に伝わる色の見本帳を見せていただきました。

「一着持っているといろんなシチュエーションで使えるんですね」

「ゑり善にはこういうものがありまして……」

「すごい、見本帳ですか(上写真参照)」

「『江戸の彩飾』という色の見本張で、当時は色を選ぶというよりも、生地を選んでからお好みの色に染め上げるという仕立て方をよくしていました。現在も可能ですが、そうするとバリエーションが無限大に広がってしまうので、今回は私の方で、剛力さんに合いそうなお色をいくつかご用意しておきました。そこから試していただければと思います」

↑お茶事に着ていくのでしたらこちらです、と亀井さんがお勧めしてくれた色無地。下の写真は滋賀県長浜でつくられる浜ちりめん。ちりめん独特のやわらかな手ざわりは、触れただけで惚れ惚れします。上の写真は綸子(りんず)といわれる地紋のある生地。細かな織柄と光沢に思わず見とれてしまいます。

いざ、試着です!

「どれもパステル調で明るいですね」

「色の深いもの、渋いものもあるのですが、20代で初めて誂えるのでしたら、若い頃にしか着られない色を着ていただきたいですね。この先お年を召されて、落ち着いた色合いにしたくなったら後染めができます。例えばピンクなら一段深くするとかグレーに変えるなんてことも可能です」

「そんなことができるんですか!」

「ええ、着物というのはその人の一生から子、孫の世代まで長くつきあえるものなんですよ。50年後にゑり善がまだ続いていたら、私がまたお世話させていただきます(笑)」

「400年以上続いてきたお店はそこが安心ですね(笑)、ぜひお願いします」

ということで試着タイムの始まりです。クリーム系、ピンク系、ブルー系、グリーン系、その道のプロが見立てた反物はどれもキレイで、肌ざわりがよくて、なかなか選べません。 

「さすが剛力さん、どの色もお似合いです」

「お洋服のときはパステルピンクや水色などは子供っぽくなりそうで避けてしまうのですが、和服だと上品に映るのが不思議です」

「生地の風合いで光の当たり方が変わって、色が変化します。お茶室は暗く、外光やロウソクの灯りなど光がよく動くので、少々明るめのお色でも浮いた感じにはなりませんね」

どれもステキで選べません。どうしましょう! どれもステキで選べません。どうしましょう!

「色はまだ迷ってますが、生地は最初に勧めていただいた浜ちりめんが気に入りました」

「浜ちりめんは”シボ”といって表面の凹凸があり、ふっくらした温かみのある手ざわりと、皺になりにくい点が特徴です。とくにこの『一期一会』は、年間数十反しか作られない質の良いものでオススメです」

「ただ、あそこの紫色が気になってしまって、試してもいいですか?」(と試着)

「これは……たいへんよくお似合いですが、少し個性のある色なので、初めの一枚としては少し目立ちすぎるかもしれません」

「アハハ、カッコイイけど初めてのお茶事にこれを着ていったら浮いてしまうかもしれないですね(笑)、今度にします」

あれこれと迷った末、
「ピンクやブルーは色無地の中でも人気ですが、実は鶸色(淡いグリーン)は誰しもが似合う色ではないんです。それを着こなす剛力さんはさすがです」という亀井さんの一言で、思い切ってこちらに決めました。

仕立て上がりまで約2カ月とのこと。次回から仕立ての工程を紹介していきます。出来上がりが楽しみです。

次回から2回にわたり、お仕立ての工程をたどっていきます。おたのしみに!